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様々な悩みに対する対処法について考えていきます!

身近にうつや死にたい気持ちの人がいる場合の対処法(2)

前回は元・陸上自衛隊メンタル教官の下園壮太氏の著作からうつ状態に陥ってしまうメカニズムについて見ていきました。今回は、うつ状態の見極め方と周りの人による対処法について見ていきます。

 

まず一番大切なのは、身近な人や大切な人がうつ状態に陥っていることに早く気づいてあげることです。あたりまえのような話ですが、身近な人だからゆえに意外とこれが難しいのです。うつ状態には、一般的には以下のような症状があるといわれています。

・ほとんど毎日、ほとんど一日中、悲しく、落ち込んでいる。

・何に対しても興味や喜びを感じなくなった。

・一か月で体重が5%減少あるいは増加した。食欲の極端な減少、増加。

・不眠、悪夢などで苦しむ。あるいはだらだらと長時間眠る。昼も眠い。

・焦っている。もしくは反応が鈍る。感じない。

・とても疲れやすく、やる気も出ない。おっくうになる。

・自分は価値のない人間だと思う。異常に自分を責める。

・頭が働かない、決められない。仕事の能率が落ちる。

・死にたくなる。その行為を起こす。

 

しかし、これだけではなかなかイメージしにくいところがあり、著者の下園氏は、うつ状態の特徴は、これらの単品の症状ではなく、下記のような症状によく出ると述べています。

 

『漠然とした不安、理由のない苛立ち、染みついた悲しさがある。

活動していないのに疲れ果て、休んでも回復しない。

眠れない。食べられない。人を避けたい。それを自分でコントロールできない。

自分が壊れそうで怖い。

しかし、なぜこのようになったのか、自分自身で理解ができない。

周囲に説明しても、理解してもらえない。共感されない。』

(出典:下園壮太著 「うつ・自殺予防マニュアル」) 

 

このような状態の当事者に対し、周りの人は何をしてあげられるのでしょうか?

以下、下園氏の上記著作から特に重要と思われる点を紹介していきましょう。

 

身近な人や大切な人がうつ状態に陥っているのかもしれないと感じたら、まず当事者のうつ状態の苦しさを理解してあげることが大切です。

 

そのためにはうつ状態がどういうメカニズムで起こる状態なのかの知識があることが必要です。うつ状態は精神的疲労が回復力より多くなったときに蓄積していきます。ここで精神的疲労というのは、なにも難しい計算や文章を読んでいるときばかりではありません。感情のプログラムが発動しているときに最も頭のエネルギーを使うのです。

 

例として、あるテレビ番組でやせるための企画として、富士の樹海で二泊三日、一人きりで過ごすという企画の話が紹介されています。ただそこで寝ているだけだったにもかかわらず、過去のどの「やせ企画」よりもずっと体重を落とすことに成功したというのです。自殺の名所である藤野樹海で一人きりで過ごすことの恐怖感が身体のエネルギーを奪ったのです。感情のプログラムがいかにエネルギーを消耗するかという事を如実に物語る企画でした。

 

二番目に疲労が蓄積しやすい出来事は、引っ越しや転職、結婚、離婚、出産、異動などの環境の変化です。三つめは人間関係上の問題で、いじめや、セクハラ、パワハラ、DVなどに遭うと、あっという間に消耗してしてしまいます。四つ目は情報の氾濫と価値尺度の崩壊です。要は情報量が多すぎてさらに、多種多様な価値尺度が氾濫し自分の人生を選択していくことに消耗していくのです。

 

これらの精神的消耗は、肉体的疲労とは違うので「疲労とは体(肉体)の活動」という思い込みをしている現代人は、肉体的活動はたいしていしていないのに、どうしてこんなに疲れるのかを疑問を感じ、次のような悪循環に陥ってしまいます。

 

「精神的に疲れる→疲労を体全身に感じる→体が疲れているわけはない。これぐらいで疲れていてはいけないと感じる→活動を続けてしまう→疲労が一層強くなる・・・・」

 

また、疲労により傷つきやすくなっていると同じ問題を抱えていても、一つ一つの問題がとても大きな問題に見えてきてしまいます。こうして前回お話しした「感情プログラム」の一斉発動がおこってしまうのです。

 

こうしたうつ状態の人特有のメカニズムを頭に入れて話を聞いてあげないと、えてして「どうしてこの程度の悩みで参ってしまうのだろう? だれでも体験している出来事なのに・・・」と理解できない気持ちから、つい「こんな事、だれでもあることなんだから、気にしないで、ほら元気を出して!」等と励ましたりしてしまいがちです。まずは本人にとってどれだけ今の状態が辛く苦しいのか? じっくり話を聞いてあげましょう。

 

聞いてあげるためには、本人に話をしてもらわなければなりません。そのためにも当事者が自分の不調を言葉で表現するきっかけを周囲の人が意識的に作ってあげる必要がありますが、これがなかなかむつかしいのです。いきなり「何か悩んでいることがあるのか?」と聞いて素直にこたえてくれるような関係であればよいのですがなかなかむつかしいものです。その場合は、「最近、顔色がよくないような気がするけど、体調はどう?」とか「何か疲れているような印象があるけど、食事ちゃんと食べられている?」のようにまず体調管理を気遣う会話を続けてみるのも一つの方法です。相手が悩みを話し始めてくれれば、それに耳を傾けますが、それ以上話が発展しなかった場合には「何かあったら相談にのるからね。」と、あなたのことを心配していて力になりたいというメッセージを残して、あっさりと会話をおわりましょう。それ以上根掘り葉掘り聞きだそうとすると逆に心の壁が高くなってしまう場合もあります。

 

さて、話を聞いてあげるとともに大事なことは、一人にしないで付き添ってあげて医療機関を受診させるということです。現在の医学ではうつ病神経伝達物質の異常等の生理学的メカニズムや病理もある程度解明され、効果的な治療薬が開発されています。治療薬は効果を発揮しはじめるには少し日数がかかります。早く治療を開始できるように精神科医または心療内科医を受診するようにフォローしてあげてください。医者から休養が必要との話がありましたら、職場関係の友人や上司であれば休みやすい雰囲気を整えてあげることも必要です。

 

最後に危機介入段階つまり、自殺の可能性を感じた場合の周りの人の原則的な対処方法についてまとめてみましょう。この方法で当面の対処をしたうえで休養や治療に結びつけていきましょう。

 

1)仕方のない自殺もある(覚悟を決める)

最初にこのような否定的な内容が説明される理由は、自殺には運命の波が大きく関係するのでどんなに周囲が頑張り本人が抵抗しても防ぐことのできない自殺もありうるのだと捉えることで、初めて周囲の人が当事者の自殺の確率を低くする対応がとれるからなのです。自殺は100%防げるもの、防がなければならないと周囲の人が必死になりすぎると当事者との距離が取れずに自分が感情の波に飲み込まれてしまい、当事者が必要としている支援を与えることができないばかりか、当事者に 不要のプレッシャーや疲労を与えてしまうことさえるののだということです。

 

2)変えないことが第一

当事者の生き方、対処の方法を変えようとしない

簡単にいうと必死で今の状態を生きている人に対して、生き方の急ハンドルを切らせたり、急ブレーキをかけさせたりすることは、生きるエネルギーを枯渇させてしまうことになるから控えたほうが良いということです。壊れて浸水している船で水を掻い出している乗組員に陸上から「何故xxをしないのか?」とか、「xxする前にxxを点検せよ」等と指示されても、船上の人は「今はこれをすることが精いっぱいなんだ!」と叫びたくなります。陸の人にまずはこの悲惨な状態をわかってほしいと思うのです。わかった上でのアドバイスがほしいのです。当事者のそんな必死の対処方法を直接否定されても怒りと絶望感を感じてしまうのです。

 

3)声をかける

さきほど、「聞いてあげるには…」でお話した内容とも被りますが、限界状態にあるうつ当事者には、積極的にアドバイスをするのではなく、まずは自分からはなしやすいように声掛けをして、「あなたのことを心配しているよ。はなしたくなったらいつでも相談に来て」と自分から話ししてくれるまで窓口を開放してあげてください。

 

4)苦しさをわかってあげる(一緒に困ってあげる)

本人の苦しさをわかってあげてください。そのためには、簡単にアドバイスを与えるのではなく、聞いているあなたが困っている姿を見せる、一緒に困ってあげることなのです。ようやく苦しい悩みを打ち明けてくれたエネルギーのなくなった当事者が「やっとわかってもらえた」「この人なら自分を責めない」「この人なら自分を理解してくれ助けてくれる」と感じるような話の聞き方をするのです。苦しさの原因分析をしたり強引に説得したりしないで、「辛かったね」「よく頑張っているね」「自分でもそういう立場だったら同じように考えて苦しむと思うよ」というような共感のメッセージを伝えてあげてください。

 

5)受診・休養の説得

苦しみをわかってあげたら、いよいよ当事者に休養に入る必要があり、まわりもそれを理解し受け入れている」ことを伝えていきます。抵抗がある場合には、眠れないことを取り上げてその対応のためにと受診させたり、総合病院の内科にかかり、そこから精神科に回してあげる方法や、心療内科という敷居が低く感じられる方法もあります。一度、受診をことわったからといって、諦めず少し間をおいて説得を繰り返してください。当事者の拒否感が強い場合は、今の当事者にそれ以上の無理強いは逆効果になるので、「いつでも支援し、いつでも病院に一緒にいける」という態度を示しつつ、つかず離れずの態度を示しつつ、つかず離れずの距離を維持しましょう。

 

6)支援の求めかた

どうしても当事者が受診しない場合や、自分まで参りそうな場合、 どうしてよいかわからない場合は、身近な人が専門家の助けを求めましょう。精神科医をはじめとする医師やカウンセラー、精神保健福祉士、看護師、保健師、保健所、児童相談所の職員等、サポート・リソースに相談をもとめましょう。

 

7)距離感の作り方

あなたが当事者にとって身近な人であるほど、心配が大きくなりすぎて当事者を消耗させてしまう場合があります。寒く凍えている当事者にとって暖かいストーブの火はありがたい無くてはならないものですが、寒いだろうとストーブをどんどん近づけてしまうと当事者はやけどをしてしまいます。ストーブとの距離は当事者がとるのだということを念頭におきましょう。その距離感では不安だと感じるかもしれませんが、それは当事者の不安ではなく、支援者自身の不安だということに気づく必要があります。

 

本日のご説明は以上です。

もっと詳しい内容やQ&Aについては、前回もご紹介した「うつ・自殺予防マニュアル」に詳細に記載されています。不幸にして自殺や未遂が起こった場合の対処方法(ポストベンション)やケーススタディについても記述されていますが、当BLOG では割愛しています。これらの情報が必要な人は特に下記に再掲した書籍にて確認して下さい。


 

 

 また、この記事を読んでいる方自身がうつ状態で苦しんでいる場合、周りに人に助けを求めることを躊躇しないでください。また、自分でできる自信回復法については、同じ下園壮太氏の著作「自衛隊メンタル教官が教える うつからの脱出」という本を参考にしてください。