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様々な悩みに対する対処法について考えていきます!

身近にうつや死にたい気持ちの人がいる場合の対処法(1)

まだブログ3回目のこのタイミングですが、身近に死にたい気持ちの人がいる場合の対処法について触れておきたいと思います。

今日の話は元・陸上自衛隊の衛生学校の心理教官として多くの惨事や自殺問題への支援を経験されたNPO法人メンタルレスキュー協会理事長の下園壮太氏の著作から得られた内容から、重要と思われる点や興味深い点を中心にご紹介します。身近にうつや死にたい気持ちの人がいらっしゃる方への参考になれば良いと思います。( 最後にお勧めの必読書を紹介しますので、是非一読されることをお勧めします。)

 

もし、現在自分自身がそういう気持ちなのであれば、すぐに身近な人や頼りになりそうな人に迷わずご相談ください。そして出来ればその方と一緒にすぐに精神科医(または心療内科医)の診察を受けるようにして下さい。現代の医学では多くのうつ状態は医療によって回復する事を信じて下さい。

 

さて、下園さんのお話で私がとても興味深く共感したのはまずうつ状態に対する考え方です。うつ状態とは人が精神的に疲労しきった状態で、この疲労しきったからだをまもるための生命の緊急対処プログラムである<感情のプログラム>が一斉発動した状態ととらえます。

 

どういうことかというと、まだ人類が原始人だった頃、深い藪の中を進んでいて突然熊に遭遇し目が合った時を想定してみます。原始人の身体はこの脅威に反応し、暗闇でも相手がよく見えるように瞳孔が開き、戦いでの出血をおさえるため毛細血管が縮む結果顔面蒼白になり、血液はすぐ固まりやすいようにドロドロになり、激しい運動に備えて心臓は大量の血液を送り出そうと心拍数や血圧があがり、エネルギーを戦闘に必要な筋肉にまわすため消化管は活動を休止し、消化液は分泌を止めるので胃が痛くなり喉が乾きます。

 

これらの反応は感情のプログラムのうち<驚き・興奮のプログラム>という短期決戦用のプログラムの発動です。精神的ストレス状態が長く続くと、このプログラムがずっと作動し疲労しきってしまい、いったん極度の疲労状態になると少々の休憩では回復しなくなってしまうのです。

 

我々の身体はこのように危機的な状況だと認識すると、疲労しきった原始人を守ろうと様々な<感情のプログラム>が一斉発動します。例えば疲労している状態は外敵に襲われやすいので<眠らないプログラム>が働きます。また自分の縄張りを侵す者を威嚇し攻撃しようとする<怒りのプログラム>に思考を乗っ取られる。そして自らも傷を負った場合は原始人が生き延びるために安全な棲み処に身を隠す<悲しみのプログラム>が発動し、 フラフラと外に出ないですむように食欲・性欲・興味を消して静かに生活する(ひきこもる)ようになる。

 

そして原始人はもう自分の命の最後が迫っていてそれに対応できないと感じる(自分自身に対する無力感を感じる)と最後のプログラムである<絶望(覚悟)のプログラム>が発動し「自分の命を捨てて仲間を救え」という行動に出るのだそうです。これはうつ状態の人が「自分は足でまといで、自分が死ねば仲間が救える。」というような自殺念慮に結びつくというのです。

 

これは学問的な定説ではないかもしれませんが、強いストレスが長く続いて精神的に疲弊した人がうつになり、自殺念慮を持つにいたるメカニズムの一つとしてわかりやすい説明だと思います。特にうつ状態に陥っている人が自分の感情を「わけがわからない」と感じる理由も、これらの危機的状況に対する<感情プログラム>が一斉発動するので混乱してしまうと考えると理解できます。

 

そしてもう一つ理解しておいたほうが良い考え方は、うつの状態は本質的に波のように変動し、普通の状態のときに比べうつ状態ではその波の高さが27倍に増幅されてしまうという考え方です。この27倍というのは、元気な時に比べてうつ状態のときはショッキングな出来事に対する精神的反応(ダメージ)が3倍になり、回復にかかる時間も3倍かかる、その結果そのなみが引く前にショッキングな出来事に遭遇する確率も3倍になり高い波同士が重なり、結果として死にたくなるライン(堤防)を超えてしまう大きな波に襲われやすいという考え方です。

 

更に、うつ状態は落ち込み期や底期には身体エネルギーも精神エネルギーも低いのですが、回復期になると身体のほうが先に回復するため、まわりも元気になったと誤解し「もう大丈夫だね」と言ってしまったりし、当事者も「これ以上迷惑をかけられない。しっかり責任を負わなくては。」という気持ちになり先ほどのうつの大波が来た時に体が動く分、行動に走ってしまいやすいという事も指摘されています。

 

うつは「こころの風邪」という言葉を聞いたことがあると思いますが、下園氏は「うつ状態は心の骨折」と表現しています。骨折ならばしっかり治るまでは無理してまた同じ個所を骨折しないように注意しますが、心の骨折も同様にしっかり治療して直さないと 再度骨折、今度は複雑骨折してしまう可能性もあるのです。しかも本当の骨折ではギプスをはめるので他人からもそのつらさが見えますが、心のギプスは本人にも他人にも見えないのでその大変さが理解されにくい事を心に留めておく必要があります。

 

次回はうつ状態を悪化させやすい事と具体的対策について触れていきたいと思います。

身近に該当する人がいる方は、是非一日も早く適切な医療機関に同行してあげて頂けますようお願いします。

 

なお、本日私が自分の視点からピックアップした内容は主に下記の書籍が出展です。

かなり厚めのしっかりした本ですがとても読みやすい本なので、大切な人や身近な人がうつ状態だと感じたり、死にたいという気持ちをもっている可能性がある場合には一読しておくことをお勧めしたいと思います。